2015/06/11 : お知らせ
国立大学法人化前の平成16年3月に卒業した広島大学では文学部に在籍し、英文学を専攻しました。大学卒業後民間企業を経て、静岡県浜松市の学校法人聖隷学園(聖隷クリストファー大学)に入職し、企画部の職員として、大学等設置認可申請(大学院保健科学研究科、社会福祉学部こども教育福祉学科)、認定こども園及び中学校新設に携わりました。
その後、神奈川県横浜市の学校法人関東学院(関東学院大学)に転職し、法人事務局総務課で、日本私立学校振興・共済事業団の補助金申請に関わる業務・学校法人基礎調査、新設学部等設置に関わる学校法人の寄附行為変更認可申請等を担当しました。また、総務課在籍中に社会人大学院生として、東京大学大学院教育学研究科の大学経営・政策コースを修了した後、新設の学長室IR推進室に配属され、退学・休学・就職に関わる分析と問題解決をテーマにIR実務を担ってきました。
現在、日本の大学関係者や研究者の間でIR(Institutional Research)に注目が集まっています。これは、エビデンスに基づいた教育の質保証と、学長のガバナンスを支える経営支援という大きく2つの異なる文脈による必要性が高まっているためであると考えられます。
東京大学が2014年3月に公表した「大学におけるIR(インステテューショナル・リサーチ)の現状と在り方に関する調査研究報告書(平成24-25年度文部科学省大学改革推進委託事業)」(※1)によると、IR機能を備えた組織を有する大学は、国公私全大学の約4分の1であり、国立大学では約4割であるという調査結果が出ています。しかし、同報告書の要旨では「IR研究について、まだ日本ではアメリカの実践が紹介されている段階であり、大学関係者や研究者の間でもIRについて一定の共通理解があるわけではない。(中略)こうしたIRの現状が、日本において、教育政策関係者や大学関係者間でIRについて、共通の理解がなく、混乱が生じている原因になっている」と述べられています。これは、実際にIRを研究し、実務として担当している私の実感も相違ありません。
また、「IRとは何かみたいな話が定まら ないままに様々なことが解決できる『魔法の杖』のように思われている」(※2)という言葉をよく耳にします。実際に、IR実務で分析した結果は、現場の担当者にとって“当たり前”の結果が出てくることは頻繁に起こります。ここから、IRへの十分な共通理解のないまま、過度な期待と落胆のギャップがIRへの失望に変わる可能性が危惧されます。IRerは自分自身が魔法使いでないことを明らかにすることはとても重要なことであると考えます。
IRに関わる混乱の処方箋としては、大学のデータに関わる組織内活動をすべて内包してしまうIRというビッグワードを解体して、IRに関わる概念やキーワードを整理していくことにより、大学関係者間での共通理解を促し、IRの可能性と限界を理解しあった上で、KKD(勘と経験と度胸)からエビデンスに基づいた科学的な教学マネジメントに転換していく方法が考えられます。IRerは大学内のハリーポッター(魔法使い)ではなく、パッチ・アダムス(医師)になることが求められているのではないでしょうか。
最後に、AP事業IR担当者としては、「現場感」を強く意識していきたいと考えています。「現場感」とは、所属組織に留まりデータの海に潜り続けるのではなく、少しでも多くの教職員、学生と出会い対話することを通して、仮説や分析と現実との乖離を埋め続け、「大学教育再生加速プログラム」における真正の事業達成を図るIRerとしての指向性を意味します。そう考えると、AP事業において学生に投映するアクティブ・ラーニングは、事業担当者である私自身にもリフレクトして、現実社会におけるアクティブ・ラーナーの体現者となることが事業成功の一つの姿なのだと感じています。
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